Kataro ホームページ 「 河太郎 」 31 号 平成 24 年 ( 2012 年 ) 9 月 1 日

小説 昭和の 「 ダフネスとクローエ 」 ( 2 )
霧海 裕

 聡は小学生から中学2年生までよく遊んだ。学校から帰って夕食まで、雨が降らない限り近所の遊び仲間と遊びまくった。雨が降ると多田の貸本屋で少年画報や冒険王などの月刊漫画雑誌や山手樹一郎のチャンバラ小説や江戸川乱歩の探偵小説などを読んでいた。
 遊びの中心はパッチン ( メンコ ) とキンキン ( ビー玉 ) であったが、そのほか五寸釘の平たい部分を親指と人差し指で挟み、地面めがけて釘を打ち込んでゲームをする 「 釘刺し 」 や缶詰を浅く切って左手に持ち、そこにコマを回して鬼ごっこする 「 コマ鬼ごっこ 」 等もよくやった。そのほか冬によくやったのが 「 街戦 ( がいせん ) 」、 「 8 の字街戦 」 、 「 馬跳び 」 であった。 「 街戦 」 と 「 8 の字街戦 」 は似ているが、 「 街戦 」 は地面に雲状に二本の線を引き、内側の線に一箇所入り口を書き、二本線の間にいる奴が内側線の中に攻め入るゲームで、 「 8 の字街戦 」 は地面に大きく 8 の字を書き、 8 の○の中は両足を下ろせるが、○の外ではケンケンしなければならない。二手に分かれて争い、○の中では外に押し出されれば戦力外になり、○の外ではケンケン ( 片足跳び ) しながら倒し合い、倒された者は戦力外になる。最終的に全員戦力外になった方の負けというゲームである。
  「 馬跳び 」 は、 2 人ずつじゃんけんして負けた奴と勝った奴の二手に分かれ、負けた奴がもう一度じゃんけんして順番を決め、一番勝った奴が塀や壁にもたれる。二番目の奴はその股ぐらに首を突っ込んで両手を太股にしっかり抱き込み馬になる。以下次々とその馬のケツから首を突っ込み、同じく両手を太股に抱き込み、長い馬になる。最初のじゃんけんで勝った奴もまたじゃんけんし、その馬に飛び乗る順番を決めるのである。そして順番に馬に飛び乗り、全員が馬に飛び乗っても馬が崩れなかった場合は最後に飛び乗った奴が馬になり、塀にもたれている奴が飛び乗る側になるのである。
 これだけでは何も面白くないが、 「 馬跳び 」 の面白いところは、馬は身体を揺すって飛び乗った奴を振り落とすことができ、振り落とされた奴は即、馬になることと、飛び乗る方は一番弱そうな馬めがけて複数人が一人の馬に重なって乗り、合計の体重で馬を潰すのである。馬が潰されたらもう一回やり直しになる。ただ、重なって乗ることにはデメリットがあり、馬に揺すられると落ちやすいのである。そこの駆け引きが面白いのである。
 そのほかの遊びでは、全国共通の草野球があった。ただ、聡たちがやった野球は軟式テニスのゴムボールでやっていた。なぜなら、皆貧乏でグローブが買えなかったからである。そのほか山にもよく遊びに行った。山では主として木の実採りであったが、チャンバラやターザンごっこもよくやっていた。
 こうやって見てくると、勉強する暇など全然無かったことがよく分かる。

 中学 3 年生になると、さすがに毎日遊び狂う訳にもいかなかった。近所の遊び友達と遊ぶのは土日祝日になってしまった。しかし、中学校では昼休みの時間には例の 7 人と毎日遊んでいた。学校から道具を借りてキャッチボールやソフトボール、サッカーなどをやったが、道具を借りるのが面倒になり、もっぱら軟式テニスボールを身体にぶつけるゲームで遊んでいた。ゲームは簡単で、一つのボールを誰かに投げつけ、それを拾った奴がまた誰かに投げつけるというもので、ボールが当たってもたいして痛くなく、何時までも続けられるのである。
 ある昼休み、例によって 7 人でそのゲームをやっていた。場所は校舎から便所と、反対側に職員室がでっぱっている 3 面囲まれた小広場であった。ボールを持ったのは古川という男で、こいつは猛烈に優秀で、噂では学年一番でないかと言われている。医者の息子で、本人も医者志望だそうだ。後に東大医学部に現役で進学した。しかし古川の風貌は秀才の風貌とはほど遠く、背が高くやせぎすで眼鏡をかけ、何かおどおどした感じの男であった。古川を一見して誰もが分かるのが、彼の手足が異常に長いことであった。
 その長い左手にゴムボールを握って聡めがけて投げつけた。聡はあわててうずくまった。ところがボールは扁平になって浮き上がり、職員室の窓ガラスに当たり、ぱりんという小さな音で窓ガラスを突き破った。
  「 しまった 」 と言いながら古川は職員室に向かおうとしたので、全員一緒に行こうとすると、 「 俺が投げたので俺一人で行く 」 と言って一人で職員室に行った。
 皆心配しながら古川の帰りを待ったがなかなか帰ってこない。 10 分過ぎて 「 俺たちも行くか 」 と言い始めたとき古川がボールを持ってにこにこしながら帰ってきた。
  「 どうだった? 」
  「 うん、なんともなかった。逆に誉められた 」
  「 えっ、どういうことだ? 」

 古川が愉快そうに言うには、
  「 職員室に行って壊れた窓ガラス付近に座っている先生に謝ったところ、先生は 『 えっ? 』 と言って不思議そうにした。僕が壊れた窓ガラスを指さすと、 『 あれっ本当だ。全然分からなかった。なにで壊したの? 』 と聞くので、先生の足下に転がっていたボールを拾い、 『 これです 』 と答えたところ、 『 なに〜、軟式テニスのふにゃふにゃボールでガラスを壊したなど聞いたことがない。本当か? 』 と言うので。
  『 本当です。あそこに集まっている仲間とボール当て遊びをやっていました 』
  『 ふーん、本当のようだな。ところで君は何年生? 』
  『 3 年生です』
  『進学するの? 』
  『 ええ 』
  『 わあー残念、僕は野球部の顧問をやっているので、君をピッチャーにスカウトしようと思ったが、 3 年生の進学組はクラブ活動禁止だもんな 』
  『 そうですか 』
  『 進学したら野球部に入ったらいいよ。君だったらすぐエースになれるから。さあ。もう帰っていいよ 』
  『 弁償しなくていいんですか? 』
  『 珍しい体験をさせてもらったからいいよ 』 。と言うわけで無罪放免になった」
と言うのである。
 野球部員であった仲間の一人が、 「 俺、この間、古川とキャッチボールをしたことがあるが、古川の球、むちゃくちゃに早かった。野球部のエースより早かった。キャッチボールであんな早い伸びるボールは珍しい。古川、高校に入ったら野球部に入れ 」
と言うと古川は 「 考えとく 」 と答えた。入る気は全くないようだった。

 始業式の 3 週間くらい後、聡は椅子を教室のうしろに向け、桜庭 ( さくらば ) と向かい合って昼休みに何をやって遊ぶかの話をしながら昼メシのラスクを食べていた。ラスクは堅い食パンにシナモンと砂糖を塗った食べ物で、聡の大好物であった。学校の売店で売っており、ラスクとコーヒー牛乳が聡の定番であった。なぜコーヒー牛乳かというと、聡は牛乳を飲むと必ず下痢をするが、コーヒー牛乳は飲んでも下痢をしないからであった。
 桜庭はいつも面白い話をして人を笑わせる愉快な、勉強のよくできる奴であった。その彼が急に黙り込んで顔を赤くした。
  「 どうしたんだ? 」
と聞くと、
  「 あっちあっち 」 とアゴを右の方にしゃくった。
 右を見ると川内 ( かわうち ) がなにかわめいていた。
 川内はものすごい美男子で勉強もよくでき、女生徒の憧れの的であった。しかし、聡は川内の美男子ぶるのと、何かねっとりした爬虫類的感じがあまり好きではなかった。桜庭との話に夢中だったため、川内が何をわめいていたのか分からなかったが、よく聞くと橘かおりの悪口をわめいていた。
  「 あいつの目をよく見てみろ、どろーんとしてまるでサバの目だ。そうだサバの目だ! 」
と皆に聞こえるようにわめいていた。遊び仲間連中は皆だまって下を向いて顔を赤らめていた。
 聡は瞬間的に怒りが込み上げてきた。
  「 これは弱いものいじめ、女いじめでないか 」 と思った。聡は小学校 6 年生のとき、クラスの男生徒が女生徒をいじめ、女生徒を床に倒し、馬乗りになってびんたを喰らわせているのを、 「 バカヤロー、女いじめするな! 」 と男生徒を突き倒したことがある。それ以来、クラスの女生徒の聡を見る目が変わったのであるが、聡は何もそれに対して偉ぶるようなことはなかった。なぜなら、女いじめをやめさせるのは当たり前だと思っていたからである。
 聡は小学生の頃から近所の遊び友達のボスであった。八百屋の家でキャラメルやあめ玉を売っていたので、それをちょいちょいかっぱらって友達に配っていた。言ってみれば 「 買収ボス 」 であった。
 しかし、ボスはボスなのである。ボスの重要な役目は、けんかを見守ることであった。けんかのルール ( 武器禁止、泣いたらやめ、鼻血を出したらやめ等 ) を貫徹させることと、弱いものいじめをやめさせることであった。特に女いじめは厳禁であった。
 だから聡は、川内の女いじめをすぐやめさせようと本能的に立ち上がった。
  「 川内、身体の欠陥について悪口言うのはよくない。お前はめくら、つんぼ、おし、びっこの奴に悪口をいうつもりか。それに、彼女の目はキラキラ輝いていて綺麗な目なのに、それをサバの目というのは、お前の目の方がおかしい 」 と言った。
 川内は一瞬顔を赤くして黙り込んだ。
 聡は急に小便がでたくなり、、教室の出入り口に向かった。出入り口のすぐそばにかおりの席があった。彼女は聡が近づくとぴょこんと立って深々と頭を下げ、
  「 ありがとうございました 」
と言った。聡は
  「 川内が言うようなことは誰も思ってないよ、気にしない気にしない 」 と言って教室の向かいにある便所に行った。
 かおりは席に着き、親友である隣の席の渡辺美香子 ( わたなべみかこ ) に小さい声で
  「 うれしい 」
と言った。美香子も小さい声で 「 かおり!チャンスチャンス。あんた、前から伊吹さんのこと気になると言っていたでしょう?これからすぐ便所の前で待って、伊吹さんが出てきたら交際を申し込みな!恩に着るなと伊吹さんが言っても、前から気になってたと正直にいいな、分かった?ほら、行った行った! 」
とかおりの背を押した。かおりはもじもじしながら便所の入り口に行った。

 聡は、
  「 川内に少しきつく言い過ぎたかな。あいつ執念深いから、ボール当てゲームで俺ばかりねらってくるかも知れないな 」
と考えながら便所を出た。すると橘かおりが聡の前にすっと現れた。
 かおりは交際を申し込まれたのは数限りなくあったが、自分から申し込むのは始めてであったので、胸をどきどきさせながら
  「 あのー、私と交際してほしいのですがー 」
と度胸を決めて言った。
 美香子の予想通り聡は、
  「 あまり恩に着るな。何回も言うが、川内の言うようなことは誰も思ってないよ 」
 かおりは美香子に教わったとおり、
  「 今回のことに恩に着たのでなく、私、前から伊吹さんが気になっていたんです 」 と言った。
 聡は
  「 えー! 」
と言ってうろたえた。生まれて初めて女の子から交際を求められたのである。しかもとんでもない美少女の橘かおりから。
 女の子には絶対もてないという確固たる自信が揺らいできた聡は、
  「 こんな筈はない。これは絶対夢だ。夢に決まっている 」
と、右手で右モモをつねってみた。痛くないのである。
  「 あーあ、やっぱり夢か 」 。

 返事がないし、聡が口の中で何かぶつぶつ言いながら右手をごそごそ動かしているので、かおりは聡の右手をひょいと見た。聡は一所懸命ズボンをつねっているのである。
  「 伊吹さん、ズボンをつねって何をしているのですか? 」
  「 えっ! あ、本当だ。モモをつねってみよう。イターイ。うわー夢でないんだ! 」
  「 うれしい! OK なのね? 」
  「 OK もくそもないよ。夢みたいだ。だけど、交際の申し込みは男の役目なのに、橘さんに言わせてしまってごめんなさい。なんせ僕、女の子に絶対もてないと思っていたもので」
  「 何言ってるのよ。さっき川内さんから悪口言われたとき、私をかばってくれたのは伊吹さんだけだったし、それが真心のこもった交際申し込みだと私は思いました 」
  「 ところでさっきの川内の悪口だけど、何で急に言い出したのだろう。橘さん、ひょっとして川内を振ったんでないの? 」
  「 きんこんかーん! 当たりー。あの人、私の下駄箱に 2 回ラブレターを入れていたの。あの人、トカゲみたいな目で私をねめ回して気持ちが悪いし、ねっとりした感じが嫌いで、ラブレター読まずに学校の焼却炉に放り込んでたの 」
  「 やっぱりそうだったのか。だけど僕と橘さんの交際のきっかけを作ってくれたのは彼だから、感謝しなくちゃ 」
  「 それもそうね 」
  「 ところで具体的にどうやって交際する?橘さんだったら多分、交際の経験があるんだろう? 」
  「 残念ながら私、交際の経験は 1 回も無いの。申し込まれたのはいっぱいあるけど、好きでない人か全く知らない人だったので、全部断っていたの 」
  「 へー、そうだったの。それじゃこうしよう。僕は陰に隠れてこそこそやるのは嫌いだから、今日のきっかけを忘れないように昼食後、この便所入り口隣の廊下の窓にもたれて話をすることにしよう 」
  「 みんなに見えてちょっと恥ずかしいけれど、そうしましょう 」
ということになった。

 一週間毎日、短時間 ( 10 〜 15 分 ) の便所隣廊下窓際デートで聡は橘かおりのことがすこし分かってきた。彼女の父は N 証券 T 支店に勤める株屋さんで、彼女は一人娘であった。彼女の趣味は、予想したとおり声楽であった。彼女は小学生の頃から NHK T 放送局の少年少女合唱団に参加しているという噂があったが、本当であった。将来、オペラ歌手になるのが夢だそうだ。聡が小さい頃からピアノを習っていることを知ると、彼女は非常に喜んだ。 「 伊吹さんのピアノ伴奏で声楽を歌ってみたい 」 と目を輝かせて言った。聡はさっそく声楽のピアノ符を買おうと思った。

 窓際デートは最初の頃、皆にじろじろ見られ、少しぎこちなかったが、日が経つにつれ皆無関心になり、スムーズに話ができるようになった。
 川内も最初の頃はものすごい目をして 2 人をにらんでいたが、そのうち、にらまなくなった。しかし、昼休みのボール当てゲームは、執拗に聡ばかりめがけてボールを投げていた。まだ聡を恨み、かおりに未練があるようだった。

 聡はかおりに
  「 僕が気になっていたというのは、どういうことなの 」
と聞くと、かおりは
  「 あまりに非科学的なので話すのをためらうのですが、実は矢吹さんがうしろから来るのが分かるんです。他の人にはまったく無いのですが、矢吹さんが来るときは何か押されるような感じがするんです 」
と言う。
 聡はびっくりした。
  「 えー!実は僕も橘さんがうしろから来ると押されるような感じで橘さんが来るのが分かるんだ。不思議だなー 」
  「 えー!本当!なんなんでしょう。美香子なんか、 『 将来一緒になる、見えない赤い糸の引っ張り合いよ 』 なんてからかうのだけど、不思議でしょうがなかった。それが伊吹さんも同じだとはどういうことなんでしょう 」
とお互い頭をひねったが、もちろん分かる筈がなかった。

 聡は、土日祝日以外の昼休み短時間廊下窓際デートが楽しくてしょうがなかった。最初は何を話していいのか戸惑ったが、音楽が共通の趣味だと分かると、それを突破口に色々な話ができるようになった。

 かおりはざっくばらん、素直な性格で、まったく自分の美貌を誇らず、 「 私の顔が綺麗なのは私の努力の結果でなく、父と母のおかげ 」
とか
  「 私の顔が綺麗なことだけで交際を求めてくる男にはうんざり 」
と、聡もまったくそうだと思うことを言うのであった。
 かおりはかおりで、聡の正直で優しそうな性格、 「 かおりを射止めたぞ、どうだすごいだろう 」 と言うような思い上がった気配が全然無いのが気に入った。
 それより何より、かおりは聡の多趣味にびっくりした。音楽も西洋音楽はもとより、三味線の師匠である祖母に教わって三味線が弾けるし、箏曲や歌舞伎、民謡などの邦楽も好きだと言う。そしてラジオ作りや天体観測、ベリカード ( 放送局の受信証明書 ) 集め、スポーツは硬式野球、硬式テニスなど、かおりには始めて聞くような趣味ばかりであった。

 やがてデートのときの話題が学校の成績の話になった。口火を切ったのはかおりであった。かおりは中学 1 年生の頃は比較的成績が良かったのだが、 2 年生になってからは成績がどんどん下がり、かなり落ち込んでいた。
  「 伊吹さんは学校の成績はかなり良いんでしょう? 」
  「 いいや、 1200 人中 700 番から 900 番の間をうろうろしているよ 」
  「 うそだー、だって授業中に先生に当てられてもすらすら答えてるじゃない 」
  「 ああ、それは 3 年生になって部屋と机があたったので予習をし始めたからだ。それまで自慢ではないが 1 分も勉強したことがない。橘さんは成績、良いんだろ? 」
  「 ううん、私は 1 年の最初頃は良かったんだけど、どんどん成績が下がって 2 年の終わりには 500 番から 700 番の間をうろうろしているの 」
  「 僕より成績は上だけど、それはおかしいなー。僕の第六感では橘さんは頭が良くて 100 番以内かなと思ってたよ。毎日勉強しているの? 」
  「 してることはしているんだけど・・・・」
  「 多分、勉強の仕方が悪いんじゃない? 」
  「 どういう風に悪いの? 」
  「 予習や復習のときに専用のノートに要点を書きながら憶えているの? 」
  「 いや、教科書をただ読んでいるだけよ 」
  「 だから頭に入らないんだ。 」
 聡は書店で読んだ < こうして成績が上がった > 記事をかおりに説明した。
  「 ね、こうやれば僕のような頭の悪い奴も憶えられるんだ。橘さんもこうやれば? 」
  「 わかった。ありがとう 」。かおりは肩の荷が下りたようにほっとし、喜んでいた。

 翌日のデートでかおりが浮かない顔をしているので、聡は
  「 どうしたの? 」と聞くと、かおりは
  「 きのう学校が終わってすぐノートを買って勉強し始めたのだけど、どうやって要点を書くのかが分からないの 」
という。
  「 うーん 」
と聡は答えに窮した。
 これは口で説明しても駄目だろう、多分かおりは女性特有のきまじめさで手抜きができないのだろうと思った。その点、聡はあまりきまじめではなく、多く憶えるのは面倒なので、どんどん余計なことは切り捨てていたからである。
  「 よし分かった、要点の絞り方を僕が教えよう。しかし、どこで教えようかな。教室では先生がうるさいし。橘さんの家でどう? 」
  「 一寸理由があってだめなの 」
  「 うーん、それじゃー、僕の家でやるか 」
  「 伊吹さんのご両親は許可してくれるの? 」
  「 勉強だから大丈夫と思うけど、ただ、橘さんと 2 人だけだったら、桃色遊技しているのでないかと疑われるなー」
  「 困ったわねー 」
  「 そうだ、もう一人加えれば大丈夫だ。橘さんの横に座っている渡辺さんはどうだい? 」
  「 うん、彼女は中学の 3 年間同じクラスで、大の親友なの。彼女も成績が下がって悩んでいるので誘ってみるわ 」
  「 彼女の成績はどれくらいなんだ? 」
  「 伊吹さんと同じく 700 番と 900 番の間をうろうろしているわ 」
  「 それはおかしいな。彼女は頭が良いはずなのに 」
  「 私もそう思うけど、現実は厳しいわ 」
  「 それじゃー、今日誘ってみてくれ 」
  「 分かりました 」
 授業が終わったあと、かおりは聡に
  「 美香子も参加したいと言ってました 」
と報告した。
  「 家に帰ったら両親の許可を得るから、許可されたら明後日から始めよう 」
と聡は言った。

 聡は家に帰ってすぐ両親に、 3 人で勉強する計画を話し、許可を求めた。両親は 2 人が女生徒であることにびっくりしていた。勘のいい父親はすぐ、 「 その内の一人は聡の彼女か? 」と聞いてきた。
  「 えーと、まあそんなもんです 」
と答えると父親は、
  「 でかした 」
とひとこと言って聡の計画は許可された。

 翌日、定例の窓際デートに渡辺美香子も参加した。聡は 2 人に
  「 両親の許可を得たので明日から勉強会を始めよう 」
と言った。かおりは
  「 何を準備したらいいのかしら? 」
と言うので、聡は
  「 取りあえず明日は先生の講義の復習用のノートと明後日の教科の教科書と予習用ノートを持ってきてくれ。それから、肝心なことを忘れていたけど、勉強スケジュールは、学校を終わり次第、僕の家に集まり、大体 4 時頃から 6 時ないし 6 時半ぐらいまでやろうと思う。どうだろうか? 」 。
2 人は
  「 取りあえずそれでやりましょう。ところで私たち、両親の許可をもらったんだけど、伊吹さんは成績優秀な女生徒ということになっていますので、よろしくお願いします 」
  「 僕は劣等生の男生徒だから、 2 人は二重のウソを言っているわけだな」
  「 あははは・・・ 」
  3 人の劣等生の勉強会がいよいよ立ち上がった。

( 続く )

Updated 8 May , 2017