Kataro ホームページ 「 河太郎 」 第 31 号 平成 24 年 ( 1012 年 ) 9 月 1 日

続・釧路の夕日

奈良 久


一 はじめに

 平成 21 年 12 月に発行された河太郎 20 号に僕は 「 釧路の夕日 」 (1) と題するエッセイを寄稿した。太平洋に面した海辺の街釧路で、どうして夕日が観察されるのかを論じたものである。 「 太平洋上に沈む夕日の背景には日高の山が見える筈である 」 と言うのが結論であった。そしてそれを確かめるために 「 河太郎 」 の読者に釧路の夕日を撮影してほしいと要請した。しかし読者からの反応は現在に至るまで皆無であった。

  「 釧路の夕日 」 では、釧路での夕日は一年を通して真西に沈むと仮定した。言い換えると地球の自転軸の偏りがゼロ、つまり地球が太陽の周りを公転する軌道面に垂直の方向が自転軸と仮定して議論を進めた。その上釧路の街の緯度も経度も無視しての議論であった。言うまでもなく地球の自転軸 (2) の傾きは 23 度 26 分 22 秒、釧路市は北緯 42 度 59 分、東経 144 度 08 分の位置にある (3) 。これらの事実を考慮するだけで、釧路で太陽が沈む方向は真西方向だけではなく、季節によって真西方向を中心にプラスマイナス 30 度強の広い範囲で移動する。それに加えて、光が地球を取り巻く空気の層を通過して屈折する効果を考慮していなかった。これらは議論を単純化しようとした仮定ではあったが、明らかに単純化し過ぎの議論であった。
 地球が太陽の周りをほぼ円に近い楕円を描いて公転し、地球の自転の軸は公転楕円面に垂直な方向からずれている。一番最初に、この自転軸のズレが地球上各地で春夏秋冬の季節を生ずる最大の理由である事を春分、夏至、秋分及び冬至における地球と太陽の位置関係から理解したい。自転軸のズレと、釧路市の緯度と経度が日出没方向を決めるが、その方向が真西からどれだけズレているのかを北海道の地図上に示す。
 その方向の範囲の中に日高山脈の山々が多数あるが、その高さと観測季節によって釧路から見える ( 筈の ) 山と見えない ( 筈の ) 山が区別される。釧路から見える筈の山も、光線が地球を取り巻く大気層を通過する際の屈折効果の影響を受けて実際の高さより少し浮き上がって見えることを説明したい。それらを総合すれば前回の 「 釧路の夕日 」 の記述の曖昧な点を少しは改善できるであろうと期待している。
 「 河太郎 」 第 20 号掲載の前回の 「 釧路の夕日 」 の結論が純粋に科学的なものというよりは、多分に感覚的・情緒的な結論であった事が 「 釧路の夕日 」 寄稿以来気になっていた。そして 「 釧路の夕日 」 で無視していた上記の事実を配慮してもう一度 「 釧路の夕日 」 を論じたいと考えていた。幸か不幸か本稿で付け加えた議論の結果でも、「 釧路の夕日 」 の結論に本質的な変更を加える必要がないことが明らかになった。本稿は前回の 「 釧路の夕日 」 で単純化しすぎた条件での条件をもう少し丁寧で現実的な条件にして、続・「 釧路の夕日 」 を論ずることにしたい。


二 太陽が沈む方向

 図 1 は地球が太陽の周りを公転している様子を示した図である。地球を貫く斜めの太線で書いた軸が地球の回転軸で、公転面に垂直な方向から 23 度 26 分 22 秒傾いている。

図1 地球の公転

 太陽に向いている側の白い部分が昼間で、太陽の反対側の灰色に塗りつぶしている部分が夜である。だから地球上で日出没が起こるのは太陽に照らされている側 ( 昼間 ) の白い部分と太陽の反対側 ( 夜 ) の灰色の部分との境界線上である。その様子をもう少し詳しく説明しよう。
 図 2 ( a ) は太陽の位置が地球の右方向にある時 ( 夏至の頃 ) の太陽と地球の関係を示し、図 2 ( b ) は冬至の頃の太陽と地球の関係を、そして図 2 ( c ) は春分と秋分の頃の太陽と地球の関係を示している。図 1 と同じように、太陽の反対側の地球の左半分の灰色の影の部分が夜、右半分の明るい部分が昼である。だからすでに述べたように昼と夜の境界線上で日の出没が観察されることになる。図 2 ( c ) から春分と秋分の時には日出没は真東と真西で観測される事は明らかであろう。言うまでもなく春分は 3 月 20 日頃、夏至は 6 月 20 日頃、秋分は 9 月 20 日頃、そして冬至は 12 月 20 日頃である。
 地軸の偏りの角度を φ とし、観測地点の緯度を α とすると、冬至と夏至の頃での α と φ の関係は図 3 ( a ) および図 3 ( b ) のようになる。地球上に住んでいる人間から見ると地軸方向が真北の方向で、それに垂直な赤道方向が眞西の方向であるから、赤道上では日出没はマイナス φ だけ北に偏って、すなわち φ だけ南に偏って生ずる事になる ( 図 3 中の θ は南中高度を表す ) 。だから緯度 α の観測地点では ( α ± φ ) だけ真西からずれる方向で日出没が観測されることになる ( +は冬至の頃、− は夏至の頃を表す ) 。

図 2  冬至 ( 夏至 ) と春分 ( 秋分 ) の頃の太陽と地球

 北極付近では夏至の頃に北極点が最も太陽の方に近づくので、緯度が高ければ高いほど真西から 18 度ほど北に偏った方向に沈み、夏至の 6 月 20 日頃には 34 度という最も北に偏った方向に沈む (4) 。その後、日没方向は南方向に移動し始め、12 月 20 日頃の冬至には日の出が早くなり日没が遅くなる。北極点のごく近くでは日が沈まない(白夜と呼ばれる)。

図 3  地軸の偏り φ と緯度 α

 さらに経度も日出没時間に大きな影響を及ぼす。図 4 は日出時刻地図と呼ばれる地図で、同じ時刻に日出になる日本列島付近の地図上の地点を結んだものである。夏至の頃の日の出を考えよう。地球の自転軸が φ だけ偏っているから昼と夜の境界線、つまり日入出没線は地球の経度線とは一致せずに角度 φ で交差するようになって、図 4 ( a ) に示すようになる。同じ経度でも緯度が高い地域ではすでに日は昇っているが、緯度の低い所ではまだ日が昇っていない。このように夏至のあたりでは北極点が最も太陽の方に近づいているので、緯度が高いほど日出は早くなり、日没は遅くなるのである。逆に冬至の頃は北極は太陽から最も遠ざかるので、緯度が高いほど日出は遅くなり日没は早くなる。春分と秋分の頃は、太陽から見る地球の自転軸は地球の公転軌道面と垂直の方向を向いているので図 4 ( c ) が示すように、日出時刻地図は北極と南極を結ぶ線そのもの、つまり経度線そのものになる。このようにして季節によって日出没の時間や方向、昼と夜の長さ、などが変化するのである。
 図4 ( a ) 、( b ) 、( c ) はそれぞれ 2003 年 ( 平成 15 年 )の中央付近に書かれているのが日出時刻である。各図 ( a ) 、( b ) 、( c ) の中央付近に書かれているのが日出時刻である。
 これらの事実を総合すると、地球上の任意の位置 ( 東経何度、南緯あるいは北緯何度の地点 ) における日出没方位を計算できる。幸い海上保安庁海洋情報部 (4) や東京天文台 (5) では日月出没時刻方位の計算サービスを提供している。このサービスを利用すると、日出没方位を調べたい都市または地点の緯度や軽度を入力すると、 1 年中の太陽や月の出没時間、出没方位などを計算して結果を出力してくれる。

図 4  日出時刻地図(縦軸は緯度、横軸は経度)
図 4

 図 5-1 のグラフはこのようにして計算した釧路市 ( 北緯 42 度 59 分、東経 144 度 08 分 ) における日没方位を分かりやすく加工して示したものである。ここでは真西方向を 0 度とし、北の方向に測った角度をプラス、南方向に測った角度をマイナスとして表示してある。また春分、夏至、秋分および冬至はそれぞれ 3 月、6 月、9 月および 12 月の 20 日か 21 日なので、日没方位を計算した日は毎月 20 日としてある。また図 5-2 は、図 5-1 の日没方位の年間変化を、視覚に訴えるように北海道地図上に示したものである。

図 5-1  釧路市の日没方位の年間の変化
図 5-2  釧路の日没方向

 ご覧のように春分 ( 3 月 20 日頃 ) と秋分 ( 9 月 20 日頃 ) には日没の方向はほぼ真西の方向であるが、1 ヵ月後の 4 月 20 日には真西から 18 度ほど北に偏った方向に沈み、夏至の 6 月 20 日頃には 34 度という最も北に偏った方向に沈む (4) 。その後日没方向の北への偏りはだんだん少なくなって秋分の 9 月 20 日頃にはまた真西に沈むようになる。それ以後は日没方向の真西からの偏りは逆転する。


三 大気による光の屈折効果その他の効果

 光は真空中では直進するが、空気や水など、光学的粗密度の違う媒質を通過するときには、屈折効果により媒質の境界面で進路が曲げられる。水を張った盥 ( たらい ) の底が実際より浅く見えるのは、よく知られているように水による屈折効果のためである。地球の表面には大気があり、その濃度は地表に近いほど濃く、高度とともに薄くなって高度数千メートルで実質真空になる。つまり地球の大気は、地表から微小量ずつ濃度が減少した薄い空気の層が重ってできていると考えることが出来る。大気中を通過する光はその微小量ずつ異なる空気層の境界で微小量ずつ屈折を受けて進行することになる。

 まず 「 見かけ上の地平線 」 という概念を説明しよう。図 6 を見て欲しい。地球上 h の高さ B 点にいる観測者が認識する ( 真の ) 地平線は、もし光が直進するならば B 点から地球に引いた接戦が地球と接する C 点である。しかし既に述べたように B 点を発した光は図 6 に示すように上方に凸に屈折して進行し、見かけの地平線 D 点で地球に接する。B 点にいる観測者はこの屈折光の B 点における接線方向、つまり見かけの地平線方向に見かけ上の地平線を認識する。だから見かけの地平線は B 点にいる観測者から見て、 ( 真の ) 地平線より遠方にあることになる。

図 6 見かけの地平線

見かけの地平線の伏角を E とすれば、普通の一回り 360 度の単位で表すと、 1 度= 60 分の分の単位で

E = 2.12 × Sqrt { h }

と表される (6) 。ただし、 Sqrt と書いたのは括弧 { } の中の数値の平方根を取りなさいという記号で、h はメ−トルで表わすものとする。

 次に 「 大気差 」 について説明する。既に述べたように大気中を通過する光は屈折効果のために上方に凸に曲がって進行する。だから地上で観測する天体は大気がない場合と比べると、常に多少高い位置に浮き上がって見えることになる。この浮き上がりの角度を 「 大気差 」 といっている ( 図 7 ) 。大気差による浮き上がりの量 R の値は、光が大気中を通過する距離が長いほど大きいから、天体の高度が低くなり、地平線に近づくほど大きくなると考えられる。地平線近くの天体の場合の大気差 R の値は 35 分ないし 36 分くらいである。大気差があるため日出の時刻は早まり、日没の時刻は遅れる。日出没の計算などにはこの大気差による太陽の浮き上がり効果を受けて、太陽からの光線が地球に接することを考慮する必要がある。だから観測者は B 点における屈折光の接線方向を 「 見かけの地平線方向 」 と認識する。つまり地平線が浮き上がって見えるのである。

図 7  大気差と視半径の効果

大気差としては普通

R = 35 分 08秒= 0.58555 度

を採用する習慣になっている ( 図 7 参照 ) 。

  「 視差 」 という概念も説明しておこう。理科年表などに書かれている太陽の位置は太陽の中心の位置である。太陽の見かけの直径が約 32 分 (1) であるから、太陽の上縁が見かけの地平線に接した瞬間には太陽の中心は見かけの地平線より約 16 分下にある。日出没時刻の計算にはこの点を正しく考慮しなければならない。恒星のように非常に遠い天体なら地球の中心から見た位置も地球の表面から見た位置も実質的な差はない。しかし月のように地球に近い天体では、中心と表面でははっきりした差が生じる。例えば太陽の半径 (6) は地球と月の間の距離 (7) のほぼ2倍に近い!

 日の出没時、地表では観測者は水平方向に太陽を見る。この時の太陽と地球の関係を図 9 に示した。この時太陽の中心 S から見て地球中心 C と観測者 O を挟む角度が「 太陽の視差 Π(パイ) 」 と呼ばれるものである。天文学では、地球と太陽の距離の平均値( 約 1 億 4960 万q )を長さの単位とする天文単位系 (8) が良く使われる。地球と太陽の距離が 1 天文単位の時の太陽の視差 Π 0

Π 0 = 8.794148 秒

と定義されている。だから地球から太陽までの距離が r とすると、天文単位の時視差 Π は
             Π = Π 0 / r
                = 8.794148 / r ( 秒 )
                = 0.0024428 /r ( 度 )
となる。

図 8 赤道地平視差

 地球は太陽の周りを楕円軌道を描いて回っている。地球と太陽の距離 r が 1 天文単位の時、太陽の視半径 S 0

S 0 = 16 分1.18 秒

で定義されている。従って地球-太陽間の距離が r 天文単位の視半径 S は
             S = S 0 / r
               = 16 分1.18 秒/r
               = 0.266994 / r ( 度 )
と書き表される( 図 7 参照 )。

 以上まとめると、次のようになろう。

天体を観測する時、
 ( 1 )   E = 2.12 × Sqrt { h } ( 分 )
      = 0.0353 × Sqrt { h } ( 度 )
    だけ見かけの地平線が浮き上がって見える影響を受ける。
 ( 2 )   S = S 0 / r
     = 16 分 1.18 秒/ r
     = 0.2670 / r ( 度 )
    の視半径分だけ太陽の中心位置は地平線の下にある。
 ( 3 )   R = 35分08 秒= 0.58555 度
    の大気差分だけ太陽は下にある。
 ( 4 )   Π = Π 0 / r
    = 0.0024428 / r ( 度 )
    の視差分だけ太陽は高い位置にある。
ここで h はメートルで表した観測者の標高であり r は天文単位で表した太陽-地球間の距離である。従って日の出没の瞬間の太陽中心の高度 k ( 出没高度という ) は
    k = ‐ S ‐ E ‐ R + Π
      =(‐S 0 + Π 0 )/ r ‐ R ‐ E
となる。日本では通常 h =0、つまり E =0 と置いた計算をしている。

 以上はもっぱら太陽の地平線への入出没に関連して定義された出没高度 k について考えてきた。しかし 「 釧路の夕日 」 という現在の我々の問題は、図 9 ( 「 釧路の夕日 」 の 「 図 2 高さ h の位置 ( B 点 ) から水平方向を眺める 」と全く同じ図 ) に示すように、釧路市の幣舞橋上 h の高さ B 点から水平方向に ( x + x' ) 離れた点の高さ h' の山の頂 ( B' 点 ) を眺める問題と全く同じである。ここでは日高山脈の山々の頂上が地平線から上にあるか下にあるかを考えているので、それに対応する拡張した出没高度 g を導入しよう。太陽の縁と中心との差は考えなくて良いから g の定義は

g = Π - R


となろう。今まで引用してきた数値を使って拡張出没高度 g の値を概算すると r の値を 1 天文学単位と取って

g = ‐0.5831 度


という数値が得られる。この値は、太陽の視角約 0.533 度に匹敵する大きさということになる。つまり日高山脈の山々は実際の高さより大体太陽の視角ほど浮き上がって ( 実際の高さより高く ) 見えることになる。日出没時刻などを計算する時などは出没高度 k の効果を正しく考慮しないと正確な数値が得られない。しかし、釧路から眺めた地平線 ( 真の ) は、 g の効果で浮き上がって見えるが、同様に日高山脈の山々の標高も同じ g の効果で浮き上がって高く見える。光は到達点を出発点として逆方向に進むと、通過してきた経路を正確に逆進する性質があるから、見かけの地平線も日高山脈の山々の頂上も同じ浮き上がり効果を受けることになり、両者の相対的位置関係は変わらないことになる。従って 「 釧路の夕日 」 で導いた結論は拡張した出没高度 g の影響を考慮しても、少なくとも定性的には変わらないことになる。

図 9 高さ h の位置 ( B 点 )から水平方向を眺める ( 「 釧路の夕日 」の図 2 と同じ )

 旧・ 「 釧路の夕日 」 では、国土地理院の地図で、釧路川の南に沿う崖の高さが 22 m となっていることを根拠にして、h の値を幣舞橋近くの釧路川南岸に沿う崖の高さ 22 m と取り、地平線までの距離 17 q を得た。日高山脈最高峰の幌尻岳と釧路の間の距離 ( x + x' )は約 140 q だから x は 123 qである。これに対応する h' の値は 1188 mであった。この約 1200 mを地平線の下に隠れる日高山脈の山々の高さとしたのである。
 この1,200 m という高さは、釧路の幣前橋から夕日を望む観測者の地表からの高さ h に深く依存していることはお分かりいただけたと思う。旧 「 釧路の夕日 」 では、仮に採用した 22 m という数値を見直すことをせずに、結果としてこだわり過ぎたと思う。次章ではこの点も再考慮したい。


四 日高山脈の山々は釧路から見えるか

 図 10 は日高山脈の主だった山々の位置 (9) と標高を書き込んだものである。
 釧路から日高山脈の最高峰幌尻岳( 2052 m )までの距離はおよそ 143 q である ( 旧・ 「 釧路の夕日 」 ではこの距離を 140 q とした)。釧路を中心としてこの距離 ( 143 km ) を半径とする円弧も図 10 に書き込んである。また幣舞橋の観測点高度 h を 22 m とした時の地平線までの距離 ( 約 17 q ) を半径とする円弧も書いてある。これを見ると日高山脈の山々はほとんどすべての山々は釧路を中心とする半径約 140 q の円周近くに密集して分布していることが分かる。ついでながら北海道の最高峰大雪山も釧路からの距離は約 143 km である。

図10 日高山脈の山々

 既に述べたように、旧・ 「 釧路の夕日 」 では釧路-幌尻岳の距離を 140 q とし、h の値を 22 m として釧路からの地平線までの距離を 17 q と計算した。従ってこの地平線から幌尻岳までの距離 x' は 123 q で、この位置における h' の値は 1188m であるとした。つまり標高がこの値以下の日高山脈の山々は地平線の影に隠れて釧路からは見えないし、これを超える標高の山々の峰々の部分が釧路から見えるはずだとしたのである。
 言うまでもなく 1188 m という値は釧路の観測点の高度 h を 22 m として導き出された結果である。もし h の値を 10 m とするとこの値は 1366 m となり、さらにもし x の値を 140 km とすると、この値は 1537m になってしまう。
 幌尻岳は釧路から、真西より南方に約 12 度偏った方向にある ( 旧釧路の夕日では真西とした ) 。帯広や池田は真西からほぼ 5 度南方向にずれた方向にある。石狩山地に属する大雪山、石狩岳、十勝岳などは真西より北に 30 度から 33 度偏った方向にある。そしてこれらの山々はすべて釧路から約 143q の距離にある。4 月から 9 月までの間は釧路における日没の方向が真西からかなり大きく北の方向にずれているので、ここでは考えない。 3 月半ばから 8 月半ばまでの間は、夕日は間違いなく海ではなく陸地 ( 山 )に沈むからである。つまり石狩山地や夕張山地は無視して、もっぱら日高山脈だけを考えようという訳である。だから 1, 2, 3月および 10, 11,12 月の日没だけを考えることにしよう。
 このように条件を限定すると、我々の問題は 『 日高山脈の山々 ( すべての山々は釧路から約 143 q 離れている ) のうちその山頂が釧路から眺めた時の地平線の上に見えるか、あるいは下にあって見えないかを判定する 』 という問題に帰着されることになるだろう。
 さて既に述べたように、幣舞橋の上から夕日を眺める時の観測高度 h の値如何によって、地平線の下に隠れる日高山脈の山々の高さが変わる。その様子を定量的に計算して示したのが表 1 である。地上スレスレで観測すると標高 1600 m 以下の山は見えないし、5 m の高さから観測すると 1429 m 以下の山が見えないことになる。釧路川の南岸の崖の上から見ると ( h = 22 m ) この高さは 1249 m であり、少し現実的ではない 40 m の高さから観測したとすると、その高さは 1137 m となり、h' の値は h に強く依存している。
 日高山脈には最高峰の幌尻岳 ( 2053 m ) のほか、1900 m 級の山 ( ピパイロ岳、戸蔦別岳、カムイエクウチカウシ山など ) 、1800 m 級の山 ( チロロ岳、一八三九峰など ) 、1700 m 級の山 ( 芽室岳、妙敷山、神威山、ナメワッカイトンナック岳、コイカクシュサツナ岳、ヤオロマップ岳、ペテガリ岳など ) 、1600 m 級の山 ( シウシナイ山、ソエマツ岳、ピリカヌプリなど ) 、そして 1500 m 級の山 ( 中ノ岳など ) やそれ以下の高さの山が多くある (10) 。この山脈は、火山を主とした石狩山地の大雪山のような山脈と違って、褶曲によって形成された山脈と言われ、鋭く刃物を上に向けたような男性的な山脈だ。
 釧路から夕日を眺める場所の標高 h の値如何によるが、10 m くらいの高さから眺めるとしよう。すると標高が 1300 m ないし 1400 m 以下の日高山脈の山々は地平線の影に隠れて見えないし、それ以上の峰部分が見えることになる。第三章で議論した大気による光の屈折などのは効果は、地平線や山々に浮き上がり効果をもたらすが、此処の問題では数値的に微細な変化を与えるにすぎない。既に述べたように、この浮き上がり効果は地平線と山の高さに同じように効くので、山が見えるか見えないかの議論には変化を及ぼさない。

表 1  幣舞橋の上高さhの高度から夕日を観測する時、地平線までの距離 x,日高山脈の山の高さ h' まで地平線の下に隠れて見えない地平線からの距離 x' との関係
表 1

五 あとがき

 しかめっ面して、そしてしつっこい議論を延々と行なってきたが、結論は変り映えしない心理学的あるいは情緒的な結論、すなわち 「 少なくとも 1500 m 以上の日高山脈の山々の峰部分は釧路から見えるはずである。しかし、143 q ほど遠く離れた日高山脈の多くの山の峰部分は、心理学的あるいは情緒的には見えなくて、やっぱり釧路では夕日は海に沈む! 」 という結論になってしまった。
 旧・「 釧路の夕日 」 および続・「 釧路の夕日 」 の結論が、本質的には変わらないという結果に安堵しているのは事実である。しかし、なんとも科学者らしからぬ結論に、あらためてうんざりしているのも亦事実である。もし奇特な 「 河太郎 」 の読者がおられて、写真をとって下さるなどの方法で、 「 釧路の夕日 」 問題に関与してくださる方がおられれば大変有難い事だと思っている!

参考文献

  (1)    奈良久「釧路の夕日」:「河太郎」20号p36.
  (2)    地球の自転軸
         http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%BB%A2
  (3)    釧路市の緯度と経度
         http://www6.ocn.ne.jp/~gero3p/files/jisa/maesetu.html
  (4)    海上保安庁海洋情報部
         http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/automail/cgi/sunmoon.cgi
  (5)    東京天文台
         http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
  (6)    長沢工
         「日の出・日の入りの計算」:知人書館、2010年。
  (7)    太陽の半径
         http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%8D%
         8A%E5%BE%84
  (8)    天文単位
         http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%96%87%E5%8D%
         98%E4%BD%8D
       地球-月間の距離
         http://www12.plala .or.jp/m-light/Distance.htm
  (9)    北道邦彦「アイヌ語地名で旅する北海道:朝日新聞出版、2008年.
 (10)     国土地理院5万分の1地形図
Updated 10 February , 2021